
服を選ぶとき、私たちは何を大切にしているでしょうか?
デザイン、機能、価格――そして今、地球環境への配慮という視点も欠かせなくなりつつあります。
「身近な“服”という題材から、環境とキャリアの両方を考えてほしい」
そんな想いのもと、出前授業を届けているのが株式会社ゴールドウインの稲村さんです。今回は、この出前授業に込める想いや取り組みついてお話をうかがいました。
服という身近な題材で考える地球の課題と自分のキャリア
ー はじめに、御社の事業内容についてご紹介いただけますか?
主にスポーツウエアを企画・開発・販売している会社です。
取り扱っているスポーツブランドはアウトドアスポーツの「THE NORTH FACE」や、水泳の「Speedo」、ラグビーの「Canterbury」など、様々なスポーツで使用するウエアやギアを取り扱っています。
このような「モノづくり」だけではなく、登山やキャンプ、マリンスポーツなど様々な自然体験を提供する「コトづくり」や自然のなかで遊びながら地球環境について学ぶ場所としての「環境づくり」も行い、人と自然の新たな関わり方を提案する「ライフスタイルクリエイティブカンパニー」です。
ー どのような出前授業を提供されていますか。
未来や希望をつくる、課題に立ち向かうお仕事とは
~環境問題やスポーツウエアのデザインを通して一緒に課題解決を考えよう~
「課題を解決する」という大きな社会テーマを、服がもたらす環境問題、スポーツウエアのデザイン、を通して学んでいただく授業です。
ー 具体的な内容や特長などについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
私たちの出前授業の目的は大きく2つあり、その2つは密接に関係しています。
ひとつは、私たちが置かれているファッション産業は、地球環境に大きな負荷をかけているということを知ってもらい、ひとりひとりがこの課題に向き合い、一緒に解決のためのアクションを起こして欲しいということを伝えるものです。
そしてもう一つは、子どもたちがこの先社会に出た際に直面する様々な課題を解決するための思考力や行動力を、スポーツウエアのデザインという当社独自視点で行うグループワークを通して、学んでいただくことです。
前者は環境教育、後者はキャリア教育という視点で捉えており、この2つをミックスしながら展開しているのが私たちの出前授業の特徴です。
また、子どもたちが主体的に授業に参加できるよう、身近な服に関するクイズを出したり、動画を見てもらったりと、最後まで飽きずに主体的に取り組める工夫をしています。グループワークでは、子どもたちがデザイナーになりきって発表できるようにすることで、アパレルデザイナーの仕事を疑似的に体験できる時間も大切にしています。
ー 御社が出前授業を始めたきっかけや背景を、ぜひお聞かせください。
当社は、「⼦どもたちの可能性を引き出し、美しい未来を形づくるための閃きと機会を提供する」というビジョンを掲げています。地球環境は様々な課題を抱えており、子どもたちにどんな未来を残さなければいけないかということを考えるなかで、まずは実態を知ってもらうことから始めようと、出前授業の取り組みを開始しました。
私自身はスタート時からこの取り組みに関わっています。
とは言え、当社がこの取り組みを本格的に開始したのが2024年なのでまだ駆け出しの2年生ですが・・。
初めて出前授業の依頼をいただいたときは、通常業務の傍ら、帰宅後と土日を使って自宅で教材を作りました。
そのときの対象が小学5年生だったこともあり、子どもたちの気を引けるように慣れないイラストや、ポップな色使い、アニメーションを豊富に使った教材を作りましたが、いま改めて見ると幼稚すぎるな・・・と笑ってしまいます。
当初は、環境教育を中心とした授業内容にしていたのですが、回数を重ね、たくさんの子どもたちと触れ合っていくうちに、この未来を担う子どもたちのキャリア形成の一助にもなれるのではないかと考え、現在はキャリア教育の要素も取り入れた授業を提供しています。

心がつながる対話で、子どもたちと共に育む学びの時間
ー よりよい授業を届けるために大切にしていることや工夫があれば教えてください。
子どもたちと近い距離で、問いかけたり手を挙げてもらったりと、とにかく一方的な授業にならないように気を付けています。また、数十人のクラスになると、積極的な生徒さんもいればそうでない生徒さんもいます。ついつい積極的な生徒さんにばかり話しかけてしまいがちになるので、なるべく公平に話しかけるように努めています。
ー 出前授業に携わることのやりがいや魅力は何ですか?
まずは純粋に子どもたちと接するというのが本当に楽しいですね。
発想がとても豊かで、思いもしなかったような質問や感想が聞けたり、授業中の反応がとても面白かったり。出前授業をさせていただくことで、自分自身も子どもたちからパワーをもらえています。
また授業後にお礼の手紙が届くことがあります。ときには代表の生徒さんから、ときにはクラスの全員からの手紙が入っていることもありますが、ひとりひとりとても丁寧に、一生懸命書いてくれたことがわかり、ついつい仕事の手を止めて読みふけってしまいます。
ー 印象に残っている授業やエピソードがあれば、ぜひお聞かせください。
思い出に残っているエピソードは2つあります。
一つは、中学3年生の全クラス100人以上の子どもたちを対象に実施した授業だったのですが、人数も多いため、広い講堂で一方的なプレゼンテーションのような授業になってしまい申し訳なかったなと思っていたのですが、授業終了後に多くの生徒さんが近寄ってきてくれて、質問攻めにあいました。事前に当社のことをたくさん調べてくれていたそうです。そのときの生徒さんたちのキラキラした感じがとても印象的でした。
もう一つはちょっとネガティブなところもあるんですが・・・同じく中学校からの出前授業の依頼をいただいたのですが、その時の担当の先生がとても辛そうでした。生徒さんたちとの距離がつかめず、授業も聞いてくれない・・・と言うような悩みもお話されていました。学校の先生っていうのは本当に大変な仕事なんだろうなと改めて感じましたね。
ー 稲村さんにとって、出前授業はどのような存在ですか?
なんだか難しい質問ですね・・・。
私にとって出前授業は、ある意味自分への戒めなのかもしれません。
例えば子どもたちに環境配慮のことについて話をしたとすると、「じゃあ自分はどうなんだ?」って自問自答もするわけです。子どもたちに話す以上、自分が自信を持ってできていないこと、思ってもいないことを伝えるわけにはいかないので、常に自分を振り返り、戒めるきっかけになっているように思います。もちろん、楽しいから続いているのは間違いないですが。

子どもたちの個性と先生に寄り添い、環境とキャリアの視点からできることを
ー 今後、出前授業をどのように続けていきたいとお考えですか?
今はまだ、一方的に伝えるばかりですが、今後は子どもたちと一緒になって課題解決のアクションプランを考え、それを実行に移すところまで取り組んでいきたいと考えています。そのためには学校のご理解とご協力が必要になってきますので、共に進めていける学校と出会えることを願っています。
ー 子どもたちに届けたいメッセージをお願いします。
私は人に何かを教えるなんていう立場では決してないので、私が知っていることを子どもたちに共有するというつもりで授業をさせていただいています。私が話したことから何を感じ、何を思うかはみなさんそれぞれ違うと思います。話の内容に興味を持ってくれることもあれば、内容そっちのけで、私という一人の社会人の行動に興味を持ってくれることもあります。
どんな形であれ、何か新しいことに気付いたり、興味を持ってくれたり、そんなきっかけになればいいなという思いです。
「個性」って大人になるにつれて少しずつ平準化されてしまうのではないかと私は思うんです。
特に社会に出ると、ときには個性よりも協調性が重視されたりするような場面が多くなります。でも、型にはまらず、自分らしさを大切にできる大人に成長してほしいと思います。
ー 日々教育現場でご活躍されている先生方へ、何かひとこといただけたらと思います。
先ほどの思い出のエピソードでも話しましたが、学校の先生って本当に大変な仕事なのだと思います。
年々、教えなければいけないことが増えているでしょうし、特に近年は「キャリア教育」に力を入れるという方針も出ていると聞いています。学校だけでは教えられないこともたくさんあるかと思います。私たちの出前授業は環境教育とキャリア教育をミックスしながら展開していますので、先生のお役に立てることがあるかもしれません。少し授業時間が長くなりますが、是非ご検討ください。

まとめ
この授業は、身近な“服”という題材を通して、地球環境の課題と未来のキャリアについて子どもたちに考える機会を届けるものです。
単に知識を伝えるだけでなく、グループワークや対話を通じて、主体的に学び、自分たちで課題解決に取り組む力を育みます。環境とキャリアの両面から未来を見つめるこの授業は、子どもたちの個性や可能性を引き出す貴重な体験となっています。
稲村さん、ありがとうございました!株式会社ゴールドウインの出前授業の詳細はこちらからご覧ください。